みなさん、こんばんは。
するめいか大不漁の今年、平成28年(2016年)は、忘れられない年になりそうです。
八戸では、トロール船の水揚げした木箱の史上最高値更新中で、10月5日に15200円を付けています。
さて、するめいかの回遊について。
海を大回遊する魚ほど、その回遊経路は謎が多く、完全にわかるものではありません。
しかし、今のところわかっていることがあります。
日本で漁獲される8割方のするめいかは、日本海南部から九州西部の東シナ海にかけての海域で産卵し、生まれます。
秋生まれ群は、日本海南部から九州北西部で生まれ、日本海を北上します。
冬生まれ群は、それより南の東シナ海で生まれ、太平洋を北上します。
このことを説明したわかりやすい図が、ネット上にあります(検索すれば、たくさん出てきます)。
季節の旅人スルメイカは海洋環境変化の指標種(「
海洋政策研究所」)
資源量を維持するには、つまり、するめいかに再生産をさせるためには、ぜひとも、日本海南部から東シナ海まで、戻ってもらわないと困るわけです。
もう一つ、日本のするめいか資源の2割を担うローカル群も大事にすること。
先ほどの図の冬生まれ群の説明では、次のようにあります。
一方、東シナ海の大陸棚域を産卵場とする冬生まれ群は、幼イカは黒潮内側域に沿って房総半島沖からの黒潮の北側の北洋の海まで分布を広げ、次第に成長しながら、10月以降に北海道沿岸に移動し、宗谷海峡と津軽海峡を経由して日本海を南下する(図1右図)。
しかし、すべてが日本海へ戻るわけではありません。
秋から冬にかけて、太平洋を南下し、産卵する群が存在します。
それが、太平洋のローカル群です。
ローカル群に関する論文が、昔々、出されていたんですね。
http://jsnfri.fra.affrc.go.jp/publication/shuuroku/shuuroku-9,65-72.pdfこの論文の「4 考察」Bに、次のように書いてあります。
1979〜1981年の9月頃を中心に岩手県沿岸には秋生まれ群と思われる夏秋成熟群が1〜2割出現した(井ノ口,1982)。また1984年には出現しなかったが、1985年の9月に夏秋成熟群の雌固体が12%出現したことからも、冬生まれ群以外の群が目立つ傾向にあるのがわかる。先日、宮古漁協冷凍工場の工場長さんが、「小さいするめなのに、成熟しているんですよ。これって、するめ自体が資源量の危機を感じて、早く成熟するのですかね」と言っていたことを思い出します。
今年は、早期成熟群が多いらしい。
この成熟群は、どこで産卵するのか?
津軽海峡を渡って、日本海南部まで我慢できるのか(笑)。
9月に三陸沿岸に入ったするめいかは、あまり北上しなくなります(夏のするめは、どんどん北上します)。
むしろ秋から冬にかけて、南下するのが多くなります。
だから、この成熟群は、岩手以南で産卵する、と思う。
水産技術センターでも、常磐海域あたりにローカル群の産卵場があるのではないか、と見解を述べていました(今や退職した後藤さんによる)し、冬から春にかけて、静岡県の下田まで行ってイカ釣りをする人もいますから、ローカルな成熟群は、ある程度南下しているものと思われます。
その南下する前に、秋から冬にかけて、岩手県沖合では、トロール2そう曳きが、そのするめいかの成熟群を根こそぎ獲っていることになります。
ここで提案。
獲ったするめいかの中に、成熟したものが、例えば5%以上入っていたら、トロール漁業のするめいか漁獲を禁漁とする、とか(理想は、かけまわしのみにする)。
まき網漁業も、もちろんそうしたほうがいいだろうし、特に、九州地区での成熟群は、まき網船の漁獲を禁止すべきです。
私たちいか釣り船は?
もちろん、禁漁しない。
それは、存在するするめいかの10分の1も獲れないからです。
するめいかの学習能力は高く、昼いかで同じ魚群に針を下ろした場合、一度針を見たするめいかは、次に食いつくのは、前回の1割か2割程度で、その次は、ほぼゼロです。
中型船では、10分の1の漁獲とされています。
http://www.jasfa.or.jp/contents/squid_hand_line.html(「
全国いか釣り漁業協会」)
イワシやサバ、そして、タラ類が余っていた頃、まき網船やトロール船は、するめいかを獲らなくても困っていませんでした。
いか釣りが、資源量の10分の1しか獲れないのですから、獲りすぎというのはありません。
するめいかは、自身の体より大きな卵塊を生み、その中には、数万から数十万個の卵が入っているとされています。
もし、するめいかを獲ることのできる漁業が、いか釣り漁業と沿岸定置漁業だけならば、資源減少の一つの要因である漁獲圧に対しては、問題ないことになります。
したがって、漁獲圧を大きくしているまき網漁業とトロール漁業に対する資源管理対策が、非常に重要になってきます。
と、これだけ明確に書いて、わからない人は、もう漁業関係者をやめたほうがいい。
「まき網漁業とトロール漁業は、成熟群を獲らない」という提案、いいと思いませんか。
話は変わって、新潟の山津水産の元重役だった重茂さんという方がいます。
彼は、私にいろいろなことを教えてくれました。
その中で、興味を引くのが、やはり、するめいかの回遊経路について。
彼が山津水産にいた頃、とにかくするめいかの情報量がすごい。
小型から中型まで、どこでたくさんいかが獲れて、どこがダメなのか、机の上でわかっているんです。
そして、長年のデータを頭の中で整理した結果が、日本列島大回遊説。
秋生まれ群、つまり、日本海北上群は、日本列島を時計回りに大回遊しているの基本であり、あとは、何かの影響で、それが、太平洋まで回らないで、羅臼に全部入ったり、稚内で戻ったりすると。
ここで私が注釈をつけます。
日本海のするめいかは、潮流に乗って移動します。
太平洋のするめいかは、反対に、潮流に逆らって移動します、特に6月から8月にかけては。
日本海の潮流は、おおまかに言えば、北へ北へ。
オホーツク海の潮流も、やや、西から東へ行っているようです。
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KAN1/soudan/kairyu.html(「
海上保安庁 海洋情報部」)
そして、太平洋に抜けたするめいかは、潮に乗って、花咲から釧路、十勝海区へと移動し、それは、三陸沖に来て、そのまま南下。
これが、太平洋ローカル群になる、きっと。
ちなみに、稀に、夏に太平洋を南下する群があります。
これには首をかしげるのですが、重茂さんの説を聞いて納得しました。
日本海から津軽海峡を抜けて、太平洋を八戸へ南下した場合、その群がどんどん潮に乗って南下したのではないか、ということです。
太平洋の常識では、夏いかは北上するからであり、その時期の南下群は、日本海産だったわけです。
こうなると、太平洋の北上群の回遊経路は、ますます明快。
ただ単に、潮に逆らって行くのみ。
太平洋のするめいかは、津軽海峡であろうが、オホーツクであろうが、日本海であろうが、とにかくどこまでも行って、行き着く先は、日本海南部から東シナ海へ。
以上は、重茂さんの説から、私が導いた仮説です。
ただ、腑に落ちないのは、太平洋北上群が、途中まで黒潮に乗って、北上していること。
もしかして、寒流に入った瞬間に、潮流に逆らって北上するのかも。
この辺の習性は、全くわかりません。
ますます謎です
高知県や和歌山県などの黒潮海域でも、するめいかの水揚げはあります。
興味深いのは、高知県のデータです。
http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/040409/files/2012040400137/2012040400137_www_pref_kochi_lg_jp_uploaded_attachment_70727.pdfちゃんと地方群(ローカル群)として、夏いか漁があり、冬季には、産卵群が形成されている、ということ。
ローカル群も、資源量として、やはり無視できませんね。
北海道の羅臼海区に入るするめいかは、日本海回りと太平洋回りのどちらもいるのではないか、と話す人もいます。
仮説通りなら、潮に乗って移動する日本海北上群と潮に逆らって移動する太平洋北上群は、どちらも羅臼海区に入ることになります、たぶん。
羅臼でいか釣りに行ったことのある私の父の話では、「羅臼はいかの墓場と言われている。いったん羅臼に入ったするめいかは、出ることができない」のだそうで、資源的には、そこで死んでしまっては困るのです。
羅臼で、するめいかは産卵できない。
この大不漁の数年前まで、羅臼は大漁で、あそこで操業したいか釣り船は、短期間で数千万円水揚げしたそうです。
もしかして、羅臼の大漁が続いたら、するめいかの資源は要注意なのかもしれません。
何せ、日本海南部や東シナ海への成熟群の供給が少なくなるのですから。
こうなった場合、やはり獲る量を加減しないと、資源量は減ることになります。
上記の高知県のファイルには、次のようにあります。
スルメイカの資源量は、マイワシと同じように海洋環境の変化によって左右され、現在のように海洋が温暖な年代はスルメイカにとって好適な条件であると考えられています。現在の温暖な好条件にもかかわらず、このありさま。
まき網業界やトロール業界の人たちも、どうやって資源維持していくのか、考えるべきです。
岩手県沿岸漁船漁業組合のいか釣り部会長も、次のように言っています。
釣りは群れの1割も獲れないが、網なら丸ごと獲れてしまう。巻網はサバとイワシ、トロールはタラなど底魚を獲るのが基本で、イカに関しては資源が復活するまで考えてもらいたい。
(2016年10月3日付「週刊 水産新聞」14面)