日本の漁業が崩壊する本当の理由 片野歩

世界中で魚類資源が増えているのに、日本だけが減っている。
この現実を、恥ずかしいと思うべきである。

日本の漁業が崩壊する本当の理由.jpg

すべての漁協組合長、理事、参事、そして、任意の漁業団体の会長以下すべての役員たちは、この本を読むべきだ。
読みたくないならば、「日本の漁師は大バカものだ」を参照すること。
これを認識できないならば、役職に就く資格はない!

2024年11月30日

若者の向上心を育てるために

4回目。

先日、20歳の若者が、父親同伴で面接に来た。
何の面接かというと、私の船に乗るためである。
年を聞いてびっくりしたが、乗組員に何度も逃げられているものだから、期待半分というところかな。
今の乗組員が4月で降りる予定なので、来年度から、という話をして、あとは本人がゴーサインを出すかどうかだ。
内陸で仕事をしているので、全くの素人であり、いか釣りももちろん初めてだから、最初は、1人で仕事をやるという気持ちを私は持っている。
このままでは、宮古のいか釣り船が絶滅していまうから、何とかしないと、という気持ちが強い。

何度もいなくなる若い乗組員に幻滅を感じて、しばらく若い人に目を向けていなかったが、本当のところ、若い人たちに向上心があるのか、それを私は疑っている。
しかし、日本総研主席研究員である藻谷浩介さんは、「日報総研」で、「若者や零細事業者つぶさぬ改革を」と題して、働き方改革で何とかやっていこう、と書いている。(※1)

働き方改革で、仕事に対する向上心ができるのかどうかは、たぶん怪しい。
実際に、人権先進国の欧米企業でさえ、日本のZ世代は使えない、と。
労働時間ではないのだ。

https://tabi-labo.com/310319/wtg-firing-gen-z(「TABILABO」)

使えないなんて言葉を使われたら、もう悲惨だ。

人材は、労働時間短縮では育たない。
たぶん、親たちが悪いのだと思う。
一つは、簡単にスマホを買ってあげて、スマホ中毒にすること。
親もスマホ中毒であること。
でも、どうやら、電子決済先進国の中国でも、同じことが起きているようだ。

https://jp.reuters.com/world/china/NUAQL4Y7SZK5JDJNJRUGCMP5QQ-2024-02-17/(「ロイター」)

それでも、中国は人口が非常に多い。
1億人がこの程度でも、他の人たちでカバーできる。
しかし日本は、1000万人がこうなったら、アメリカの麻薬中毒ではないが、スマホ中毒のゾンビの街になってしまい、各産業は危機に陥るだろう。

1冊の本を読んでいると、いろいろと副産物がたくさん出てくる。
警視庁科学捜査官」を締めるにあたって、最後のほうで、著者は次のように書いている。

 志を継ぐ者たちは、現場を大切にして欲しい。現場がその時々で何に困っているのかを常に把握し、共に考えていかなければならない。真の問題は現場にしかなく、最良の解決策は現場でしかみつけることができないのである。
 若いうちから全体像を見える人材を、育てて欲しい。自分の領域だけで精一杯になるのではなく、日本の捜査支援の将来像を描ける人を育てることが大切だ。
(「警視庁科学捜査官」p310)


私は、彼のこの言葉を、その辺のエラい人たち、つまり、議会議員や公務員の上部の人たちにも贈りたい。
特に議会議員などは、漁業の現場を知らない。
そして、こういう重要職に就いているくせに、全体像もみない。
今度の新入乗組員には、やっぱりそういう仕事に対する意識みたいなのから教えてみようかな。

警視庁科学捜査官」を著した服藤さんは、科捜研に入りたての頃、やる気満々であったが、先輩たちに「ぬるま湯」の良さを教えられ、幻滅を感じた。(※2)
このシーンは、プロジェクトXでもインタビューで放映されている。
もちろん、組織によって違うと思うが、税金で賄われている役所は、「ぬるま湯」にどっぷり漬かっていて、本当に「長いものには巻かれろ」的なのだと思う。
マスゴミ連中がテキトーに取材し、それが世に出れば、それに倣う習性もある。
冤罪の一部は、マスゴミの憶測報道に原因があるのが、その模範である。

服藤さんは、毒物化学が専門ではあったが、医学的知識も必要と感じて、東邦大学医学部の伊藤隆太教授にお世話になっている。
博士になりたい、と焦っている彼を、伊藤教授は、自らも指導者となるためには、人格も磨かなければならない、と諭した。
博士になるのが目的ではなく、それを世のために使うのだと。(※3)

彼は最後に、警察庁へ勤務した。
そして、伊藤教授に諭された、人を育てることを実践するにあたって、講習会や研修会をたくさんやった。
その中で、ある研修会に出席し、その講話に感動した。
警察の「人間国宝を作る」である。(※4)
これは、何も警察だけの話ではないと思う。
いろいろな職種に当てはまることだ。
「人間国宝を作る」という言葉に、若者の向上心を育てるヒントが隠されているような気がする。



(※1)
 いまどきのバイタリティある若者は、安定した大組織よりも、自分でチャレンジできる仕事を選んでいる。そうではない普通の若者に、つぶれずに安全運転してもらうためには、むしろ働き方改革を徹底した方が良さそうだ。労働時間制限というのは、うっとうしいが仕方がない点で、道路の速度制限のようなものではないか。
(「岩手日報」「日報総研」2024年11月18日付16面) 

(※2)
 当時の技術的レベルは決して高くなく、昭和30年代や40年代の技術をそのまま使っている先輩がたくさんいた。新しい知識や技術が確立されている分野もあったが、勉強して取り入れようとする意識や環境は、あまり整っていなかった。純粋な科学的議論になると曖昧な内容に終始し、先輩の機嫌が悪くなる場面に何回も遭遇した。
 仕事をしながら、学術的な勉強をする仕組みもなかった。自費で購入した学会誌を読むくらいで、外部の新しい技術や知識は吸収されない状況だった。
 そして肝心の仕事は、ほとんど教えてもらえなかった。
「それは財産。なんであんたに教えないといけないの」
「この分野はやめてね。僕の領域だから」
(中略)
可愛がってくれた大正生まれの大先輩からは、こう言われた。
「定年まで、ぬるま湯に漬かっていればいいんだ。捜査員からは先生、先生と呼ばれて、科捜研は最高だぞ」
 さらに別の先輩からも、忠告を受けた。
「長いものには巻かれろ、ということわざがあるだろ。入庁したときは、みんな服藤君みたいに疑問をもつんだよ。新しいことをやろうと思ったりするんだ。でもね、3年もすれば慣れてきて、そんなこと思わなくなるよ」
 5年経っても10年経っても、私にそのような慣れは起こらなかった。現場で汗まみれ泥まみれになって頑張っている刑事が大好きで、真実を解明するために自分の立場で何ができるか、常に最善を求めた。
(「警視庁科学捜査官」p71)

(※3)
「いいかい服藤君。世の中にはね、まだ解明されていないけれども、必ず社会のためになる研究テーマがたくさんあるんだよ。いろいろな論文や文献を精査しながらそれに気付いて、『これだ』と自分ひとりで見付けられること。それを解明するための方法、つまり実験計画を自分ひとりで組み立て、研究をコツコツやったら結果が出てくる。それを数学や統計学やいろいろな理論を使って解析し、整理する。
 ここから一番大事だ。その結果に関連する世界中の何百もの論文や文献を読み込んで考察し、世の中のためになることを論じて、結論を導き出す。学位とは、この始めから終わりまでを出来るようになったとき、『君はまだヨチヨチ歩きだけど、ひとりでやってみるか』といって授かる免許証のようなものだ。成人式のようなものなんだよ。
 いいかい服藤君。博士は、取ったら終わりではない。そこから始まるんだ。貰ったら、大きな大きな責任を負うんだよ」
「社会のためになることをひとつでも多く行なって、人のためになる成果を残していかなかければならない。そして、ひとりでも多くの社会のためになる若い人を、今度は君が自ら指導者となって育て導き、送り出していかなければならない。それには人格も大切だよ」
 何も言えなかった。そして、とても恥ずかしかった。人生の大切な「モノサシ」をこのときいただいたと感じている。
(前掲書p78) 

(※4)
 そうした中、平成26年の警察庁指定広域技能指導官全国研修会に出席し、金高次長の講話に接した。
「皆さんにお願いしたいことは、ひとつだけである。『技術と共に魂を、日本警察のできるだけ多くの職員に伝授していただきたい』ということである。現在、全国で131名の広域技能指導官がいる。全国警察職員29万3000人から考えると、非常に希少な比率だ。平成6年にこの制度ができたとき、私は理事官として制度作りに若干携わったが、当時の長官の発案であり、『警察における人間国宝を作る』という思想であった。
 皆さんは、どの分野でも日本の第一人者であり、超一流である。どうしたらなれるのだろうと思う。元々の素質だけでなく、大変な努力をされて来られたのだと思う。仕事に対するひた向きな情熱、厳しさ、真剣さ、強いものをお持ちなのだろう。それをいろいろな機会に、広域に全国に伝えてもらいたい。警察の仕事は、それが一番大事。29万人が同じ気持ちを持てば、すごい組織になる。〜中略〜
 どうか魂や精神を、技術と一緒に伝承して欲しい。皆さんの人生を語っていただければ、感ずるものがあるだろう」
(前掲書p299)




posted by T.Sasaki at 16:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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