3回目。
地下鉄サリン事件のことを、「
プロジェクトX」でやっていた。
「
オウムvs.科捜研」である。
番組の主役は、服藤(はらふじ)恵三さんという方だ。
科捜研といえば、沢口靖子の「
科捜研の女」が有名であるが、日本の警察組織で、科捜研の実力を世に知らしめたのは彼であり、沢口靖子ではない。
地下鉄サリン事件を解決へ導いただけでなく、現在の捜査支援の構築も、服藤さんの功績である。
私は、番組の内容を文字起こししている方がいるかも?と思ってネット検索してみたら、彼は、自分の体験したことを本にしていた。
「
警視庁科学捜査官」という単行本であるが、2021年3月に文藝春秋社から出版され、今年10月に文庫化された。
捜査官たちの素晴らしさを持ち上げる部分が多々あるのには、少し辟易するが、一生懸命であるというのは伝わる。
人間的な部分にも、けっこう感動する。
そして、彼の実力というのは、本で書いてある内容からも推測できる。
彼は、日本で初めて、警察内部に捜査支援システムを作った人だ。
そのおかげで、調査など時間が短縮し、犯人の特定から摘発に貢献した。
しかし、現在の犯罪は、インターネットを利用したものが多くなり、システム自体の改良が必要になっている。
時間とともに科学技術は進歩し、犯罪者らは、それを利用する。
良心的な人間ばかりではないのである。
犯罪手法の進化に、警察がついていけない事態を彼は指摘している。
(※1)もうこなると、一般社会の人は、いかに騙されないか、犯罪にまきこまれないか、ということを自分で考えていかなければならない。
服藤さんが「
警察や検察の組織内だけで対応できる時代は終わった(p310)」と言っているように、警察はもはや、犯罪解明のための、支援装置でしかなくなっている。
そう考えることにして、あまり頼らないほうがよい。
したがって、解決が遅いから「捜査手法が悪い」とか言う前に、なぜ、犯罪が起こるのか、ということを考え、防犯に重点をおく時代になっている。
この本では、服藤さんが科学捜査に関わった事件を載せているが、この中で、3つの事件が冤罪ではないか、と疑われており、実際に再審請求がなされている。
2つは、科学捜査によって出てきた証拠が正しいとしても、実際に有罪にされた人が行ったかどうかという点で、冤罪ではないか、ということ。
その一つ、「北陵クリニックにおける薬物使用連続殺人・殺人未遂事件」。
これは、仙台筋弛緩剤事件とも呼ばれる。
「
日本は巨大な逆断層の活断層地帯である」の最後のほうでリンクを示しているから、読んでほしい。
「
紙の爆弾」の今年の4月号の「
シリーズ冤罪」でも取り扱っている。
もう一つは、「名張毒ぶどう酒事件」である。
これも、「
紙の爆弾」の「
シリーズ冤罪」で書いている。
2021年8月号である。
その他、同じ「
紙の爆弾」岡本萬尋のコラム「
ニュースノワール」で、2ヶ月にわたって書いている。
2022年5月号と6月号である。
これは、「
眠る村」という映画にもなっている。
https://www.keiben-oasis.com/2744(「
刑事弁護オアシス」)
最後の1つは、鑑定結果が、本当に正しいかどうか、という点が問題であり、誰もが知っている和歌山カレー事件である。
服藤さんは、和歌山カレー事件の鑑定の際、「SPring-8」という施設の利用を勧めている。
(※2)しかし、その鑑定結果を覆す人が出てきた。
裁判では、このことは無視され、棄却された。
その鑑定を行ったのは、東京理科大学応用化学科の中井泉教授(当時)と聖マリアンナ大学の山内博助教授(当時)であり、「それは違うだろ!」と覆したのが、京都大学大学院工学研究科の河井潤教授である。
(※3)これは「
鑑定不正」という本にもなっている。
「SPring-8」で鑑定結果を出した教授らとそれは間違っている主張する教授らが対決して結論を出すべきであり、裁判では、これらの鑑定結果が正しいかどうかわからないのだから、鑑定結果を証拠として採用すべきではない。
科学はウソをつかないなら、真実はどちらかである。
https://shueisha.online/articles/-/85712(「
集英社オンライン」)
和歌山カレー事件は、長男の手記
『もう逃げない。〜いままで黙っていた「家族」のこと〜』という本も出版され、「
Mommy」という映画も製作された。
https://note.com/itsuha_singlem/n/n78ec8eab7f9d(「
note」)
(※1)
ビッグ・データやAI、5G、IoT(Internet of Things)、ロボティクス、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といった画像処理技術の総称であるXRなど、大きな技術革命が始まっている。犯罪者は必ず、これらの技術を組み合わせながら使ってくる。我々が気付かないところで、すでに重大な変化が起こっていると考えるべきだ。
高速・大容量通信、4K・8Kなどの高精細映像やXRを活用した映像伝送、空間ホログラムなどの技術が進み、目の前に子供や孫にそっくりな3D画像が現れて本人の声で話し始めたら、おかしいと思って対応できる親族がどれほどいるだろうか。
最先端に技術を駆使しながら、高度化し、高速で高性能で、解明困難な犯罪インフラの蔓延する時代が、すぐにそこに来ている。現実とバーチャルの混同が進み、何が真実かわからなくなり、多種多様な犯罪の形態や手法は、劇的に変わる。
悲しいことに我々は、発生事後的にしかこれらに対応できない。
(「警視庁科学捜査官」p309)
(※2)
検事への説明にも足を運んだ。和歌山地検の大谷晃大三席である。強く印象に残っているやり取りがある。
「SPring-8の使用についてどう思いますか。正直、迷ってるんです」と聞かれたので、「使いましょう」と私は即断で答えた。SPring-8は、兵庫県の播磨科学公園都市にある大型放射光施設。放射光というのは、強力な電磁波の一種だ。
「あの装置は、世界に3つしかないトップレベルのものです。原子が数粒あれば特定できます。公判対策も考えたら、取り入れたほうがいいと思いますよ」
後に知るのだが、SPring-8の活用は米田壮和歌山県警本部長のアドバイスによるもの。捜査に使われるのは、このときが初めてだった。他の検査結果も踏まえて、じけんい使われた亜ヒ酸と、林真須美宅から採取した亜ヒ酸が同一であることが証明された。
(前掲書p122)
(※3)
東京理科大学応用科学科教授の中井泉氏と聖マリアンナ大学助教授(ともに当時)の山内博氏が、検察の依頼を受けて、世界最先端の科学分析装置「Spring-8」で鑑定、同資料のすべてのヒ素が「同一である」としたものだ
鑑定後、二人は記者会見を行ない、「悪事は裁かれるという社会的正義を実現する」「科学の力を真相究明に役立てたかった」などと得意げに話しており、「まるでヒーローインタビューみたいだった」と記事に書かれていた。
その山内・中井鑑定を覆す学者が出現した。真須美さんの再審請求を行う弁護団が、2009年、先の鑑定書の解説を依頼した、京都大学大学院工学研究科教授で、蛍光X線分析の第一人者でもある河井潤氏である。
弁護団は13年、ヒ素鑑定に対する河井教授の反証を盛り込む「再審請求補充書」を、翌14年に河井教授によるヒ素の「鑑定書」を和歌山地裁に提出。しかし17年3月29日、和歌山地裁はこれを棄却、弁護団は大阪高裁に即時抗告した。
その後の記者会見で、ヒ素の鑑定を行なった中井・山内両氏を相手取り、損害賠償を求める二つの民事訴訟を提起した。
(「紙の爆弾」2020年1月号p44)
posted by T.Sasaki at 14:11|
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