日本の漁業が崩壊する本当の理由 片野歩

世界中で魚類資源が増えているのに、日本だけが減っている。
この現実を、恥ずかしいと思うべきである。

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すべての漁協組合長、理事、参事、そして、任意の漁業団体の会長以下すべての役員たちは、この本を読むべきだ。
読みたくないならば、「日本の漁師は大バカものだ」を参照すること。
これを認識できないならば、役職に就く資格はない!

2018年03月21日

漁業法の目指す未来

再び。

漁業は慣習が重要である、というのが、漁業権に対する理解からわかった。
しかし、目下の問題は、魚類資源の減少である。
漁業調整の基本法である漁業法は、ここで何を目指したらいいのか。

くどいようだが、漁業法第1条には、「漁業生産力を発展させ」という目的が書かれてある。
「漁業生産力を発展させる」とは、どういうことか。

世界有数の漁場である三陸沖をはじめ、日本の海に魚があふれていた時代、「漁業生産力の発展」は、よりよい漁法の開発、よりよい漁具の開発、よりよい探知計器類の開発であり、それにより、漁業効率が良くなり、確かに生産力は発展した。
しかし、生産力だけを向上させ、効率のよい漁業の制限をあまりしなかったために、魚類資源は非常に減少したのだ。

今後の「漁業生産力の発展」とは、何を指すのか。
それは、魚類資源を増大させる取り組みではないだろうか。
魚が多くならなければ、漁業生産力は発展しない。
したがって、効率のよい漁業には、大きな制限が必要になるのは言うまでもない。
「岩手県漁業調整規則」の第1条には、「漁業法」と並んで、制限法律である「水産資源保護法」というのが書かれているが、実際には機能しているとは言えない。

大型まき網漁業は、とんでもなく優秀な探知能力のある高価な魚探類を装備し、手加減しないならば、沿岸域にある魚類は、ほぼ取り尽くしてしまうだろう。
今や、彼らはそれを自覚しているのではないか(と思うが・・・)。
漁法自体、その気になれば、生きたまま放流できるのだから、厳しく資源管理“できる”漁業である。

沖合底曳網(トロール)漁業は、網を引き揚げた時点で、ほぼ網の中の魚は、瀕死の状態である。
小さい魚を放流する、などということはできない。
放流しても、海鳥の餌となるだけである。
したがって、まき網漁業のように、資源管理“できる”漁業ではないから、制限を厳しくすべきである。

岩手沖合を操業している2そう曳きトロールは、史上最悪の漁法である。
開口板トロールの馬力アップ版と理解してよい。
概念図は、全国底曳網漁業連合会のWebサイトでリンクしてある。

http://www.zensokoren.or.jp/trawl/trawl_fisheries.html(「一般社団法人全国底曳網漁業連合」)

トロールの3つの漁法のうち、船頭の腕前がわかるのは、かけまわし、である。
かけまわしは、網を入れる位置の正確性が問われる。
開口板と2そう曳きは、そんなものは要らない。
かけまわしに比べれば、極端に言うと、バカでもできる。
魚のいる場所を経験的に覚え、魚の移動予測と季節変動を加味すれば、きっと優秀な船頭といわれるだろう。
ただそれだけのことだ。

ある船主が言っていたのが、バカでもできる漁業は、小型船では、かご漁業である。
「バカでもできる」と私が聞いたときは、「そうかなあ」と疑ったものだが、なるほど、他の漁業に比べれば、バカでもできる。
これは何を意味するか。

かご漁業は、場所に道具を設置すれば、あとは、ただの餌交換である。
燃油代や餌代を差し引いても、丸々赤字で帰ることはほとんどない。
だから、経営的に簡単な漁業であり、それゆえに、ただやっているだけでよい漁業の一つであろう。
このことから、ある船主は「バカでもできる」と表現したのだと思う。

では、なぜ、私は「商売にならない」と言って切り上げたのか。
それは、普通の賃金を乗組員に支払い、船の償却分や道具の償却分、その他を考えると赤字になるから。
この判断は、その船の大きさにもよるし、家族労賃を考えない船主なら赤字ではない。

震災前後に、ある会合で水産技術センターの人と話したのであるが、彼は、新規着業者には、かご漁業を勧めるのだという。
理由は「やりやすいから」ということだったが、これは「バカでもできる」と証明したようなものである。

「バカでもできる漁業」というのは、すなわち、経営的に楽な漁業である。
2そう曳きトロールも同じ構造であり、かけまわしのように、船頭の腕前をそれほど必要としないから、経営側とすれば、船頭を選ぶ必要もなく、経営は楽である。
したがって、両漁業とも、淘汰されにくいと言えるだろう。

一般的に、政府の補助でもない限り、魚の資源量の増減により、漁船は淘汰される。
腕前のない船頭は、淘汰されるのである。
漁船数が減少していけば、魚の資源量は増加する。
他の条件がなければ、魚の資源量と漁船数は比例し、魚の増減で、倒産と起業が繰り返される。

現在は、冷凍技術や流通の発達により、魚価が上がっているから、資源量が減少しても減額分をカバーしていると言っていいだろう。
これだと、もともと経営的にやりやすい漁業というのは、ますます淘汰されにくい。
2そう曳きトロールにしろ、かご漁業にしろ、倒産したという話は聞いたことがない。
したがって、これらの漁業では、制限を強くしないと、魚を獲り尽くしてしまう。
経営的に楽な漁業が苦しくなったら、いよいよ、本当に海に魚がいなくなった時である。
現状のままでは、未来は非常に暗い。

漁業法第1条に戻るが、目的を「漁業生産力の発展」としているから、魚類資源を増大させる取り組みが、絶対に必要となる。
私は、ブログ冒頭の「日本の漁業が崩壊する本当の理由」を読んでからというもの、「魚類資源減少について」というシリーズを書いてきた。
結論は、ずっと同じ漁業をやっているのではなく、旬の魚を目的として獲る工夫をする、ということだと思う。
漁がなくなっても、それを獲ろうとする努力は、無駄な努力であり、資源を減らすだけである。

「旬の魚を獲る」ということを優先し、効率のよい漁業ほど制限を強くするという漁業調整を行っていくことで、「漁業生産力の発展」が可能になるのである。
posted by T.Sasaki at 21:30| Comment(0) | 2そう曳きトロールは最悪の漁法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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